彼の一生を振り返るとともに,その功績を紹介したいと思います。

イタリアからの移民2世として生まれたRobert Mondaviは1933年までの禁酒法時代に自家製ワイン製造用のブドウを東海岸まで送るといった事業からワインに入っていきます。当時住んでいた Lodiが今Woodbridgeがあるところです。禁酒法が終わってから本格的にワインの道をこころざし,1940年代に親を説き伏せてナパの名門だったCharles Krugワイナリを買収しました(同ワイナリは今でもRobertの弟Peterの家族が経営しています)。

しかし,父親の死後,「世界に通じる高品質なワインを作りたい。そのためにワインをおいしい食事や芸術などと一緒に楽しむ文化をアメリカに作りたい」という高い志を持つRobertと,家族の結束を重視する弟Peterの確執が表面化しました。例えば,Robertは「一番いいものを知らないといけない」という考えからフランスに旅行に行き,高級レストランで食事をし,そのために豪華な服を買い,といった形で湯水のようにお金を使い,それが他の家族に嫌われたのです。

母親もPeterの側に付いたことから,1965年にRobertは52歳にして一家から勘当されます。そして1966年,53歳でRobert Mondavi Wineryを作りました。なお,Peterとの確執はその後,提訴といった形になり(Robertが勝訴),後年まで響きます。

Robertは新しいワイナリで世界レベルを目指します。具体的にはオークの小樽を使った熟成を積極的に取り入れ,作る品種もカベルネなど世界レベルで評価を受けられるものに限定しました。初期の代表作にSauvignon Blancに樽香を効かせたFume Blancがあり,一時代を築きました。

彼の志の元に,当時の気鋭の若者たちが集まり,育っていきました。例えばその中には1976年のパリ・テイスティングで赤ワイン1位に輝いた Stag's Leap Wine Cellarsを作ったWarren Winiarski,白ワイン1位に輝いたCh. MontelenaのChardonnayを作ったMike Grgichなどがいます。この後もRobert Mondaviはナパのリーダーとして活動を続けます。「パリスの審判」によると,パリ・テイスティングのときには既にMondaviは老舗的な存在であり,彼から育った「ブティック・ワイナリ」が,品質面ではリードし始めていたようです。

Mondaviはほかにも,温度管理が容易なステンレスタンクの導入や,フランスのブドウ畑にならった樹の密植など,ナパの先駆者として様々な新しい技術に取り組みます。

また,それ以上に力を入れたのは,世界におけるカリフォルニアワインの「ブランド」を高めようとしたことでしょう。Ch. MoutonのRothchild家と提携してOpus Oneを作ったのはその代表的な一つ。50%,50%という出資比率にこだわったことに,その思いが表れています。また,LuceでFrescobaldi家と提携したことには「イタリア移民」として格別な思いがあったようです。

晩年はナパにCopiaというワインセンターを作るのに協力したり,UC Davisに多額の寄付をするなど,さらにワインを取り巻く環境の充実に力を尽くしました。ただ,それは最終的に財政難という形でワイナリに降りかかり, 2004年にRobert Mondavi家はRobert Mondavi WineryやOpus Oneを含むRobert Mondavi Corp.を売却する憂き目に会いました。

2007年にはカリフォルニアの名誉の殿堂の第2回にスティーブ・ジョブズ,タイガー・ウッズなどと並んで選ばれ,ワイン作りの名誉の殿堂の初回にも選ばれました。

ロバート・モンダヴィを「カリフォルニアワインの父」と呼ぶことにはちょっと抵抗がありますが,カリフォルニアワインを世界に知らしめることにおいてロバート・モンダヴィほどの功績はだれにもありません。Opus Oneがカリフォルニアワインの代名詞的存在であるのも,やはり彼の功績です。個人的には,日本のワイン愛好者たちもそこから先に進んでほしいとは思いますが,ロバート・モンダヴィがいなかったら,そこまでもたどり着いていなかったのでしょう。

また,個人的には53歳にして新しいワイナリを作って成功させたということに,いつも勇気付けられています。自分もまだまだできると思いたい。



PS. 肝心なことを書き忘れていました。ワイナリを旅行者のアトラクションにして,ワイナリ・ツアーやテイスティング・ルームをオープンにするというのもRobert Mondaviが発案したことです。つまり彼がいなかったら,このサイトも存在しなかったでしょう。改めて深い感謝を捧げたいと思います。