本書は,米国の海兵隊員としてパラオのペリリュー島および沖縄本島の戦いに従軍したユージン・B・スレッジ氏による記録である。戦争の最前線にいたものでなくては理解出来ないようなすさまじい体験をこれでもか,というほど詳細につづっている。

アメリカ人が戦争について書いたものというと,どうせ戦争賛歌ではないかとうがった見方をしてしまいそうになるが,本書の主題はむしろその真逆である。例えば次のような記述がある。
珊瑚礁岩の染みを見ていると、政治家や新聞記者が好んで使う表現がいくつか頭に浮かんだ。「祖国のために血を流し」たり「命の血を犠牲として捧げる」のはなんと「雄雄しい」ことだろう、等等。そうした言葉が空疎に思えた。血が流れて喜ぶのはハエだけだ。(太字は引用者)

著者は海兵隊員として,日本兵を憎み,殺すことを教わり,実際に迫撃砲の担当として数多くの日本兵を殺している。戦場においてはまさに殺すか殺されるかであり,そこに選択の余地はないわけである。その現実と,上記のようなアイロニーが矛盾することなく存在している。それがまさにペリリューや沖縄のような激しい消耗戦の果てに行きつくところなのだろう。

この視点は,日本人が太平洋戦争を捉えるときにも重要なポイントになるような気がする。最近,いわゆる「自虐史観」を否定する意見として「ご先祖様が国のために必死になって戦ってきたことを間違っているとするのか」といったものをよく目にする。そうではないのだ。戦争のむなしさ,無意味さと,戦場で兵隊が必死に戦うことは矛盾しないのだ。国の過ちと個人の過ちは全く違うのである。
われわれは頭のつぶれた敵の将校を砲壕の端まで引きずっていき、斜面の下に転がした。暴力と衝撃と血糊と苦難――人間同士が殺しあう、醜い現実のすべてがそこに凝縮されていた。栄光ある戦争などという妄想を少しでも抱いている人々には、こういう出来事をこそ、とっくりとその目で見て欲しいものだ。敵も味方も、文明人どころか未開の野蛮人としか思えないような、それは残虐で非道な光景だった。(太字は引用者)

戦争とは何かを考えるため,いろいろな人に読んで欲しい本である。