昨年秋に出版された『The New California Wine』。米国では数多く出ているカリフォルニアワインの本の中でも注目の1冊です。

2013年ころからIPOB(In Pursuit of Balance)というグループが注目を集め始めているのは、このブログでも何回も紹介しています。最近ではLioco、Sandhiといったワイナリが来日してセミナーを開いたのにも参加しています(全カリフォルニアが注目するIPOB、創設者ラジャ・パーが語るIPOBのLiocoとSandhi、Domane de la Côteを試飲)。

このグループの推進役の一人であり、強力なスポークスパーソンでもあるのが本書の著者であるJon Bonne(ジョン・ボネ)氏です。SFクロニクル紙のワインライターで、2006年にW. Blake Gray氏の後を継いでクロニクルのライターになった人です。

ニューヨークから来たボネ氏は、カリフォルニアワインにはあまり馴染みがなく、その力強いスタイルにもあまり好感を持たなかったようです。それが取材を進めるうちに、発見していったのが、濃い一辺倒ではないスタイルを模索する新しいワイナリで、最初は仲間内のグループだったIPOBを広報・宣伝するようになってきたと見られます。

本書は、前半ではカリフォルニアワインの通常は書かれない裏側の世界が描かれています。ワイン版の「不都合な真実」と言ってもいいかもしれません。といってもネガティブなことばかりではありません。例えば、このところの水不足でテーマに上る灌漑についていえば、どうしてカリフォルニアの大部分のワイナリでは灌漑をするのかなどについて、歴史的な事情などを含めて詳しく説明しています。また、灌漑をしないというワイナリのことについても書かれています。カリフォルニアの安ワインを支えるセントラル・ヴァレーの畑の話なども、なかなか面白かったです。いろいろな面から、これまでのマジョリティと新しい動きを解説していると言っていいでしょう。マニアックなカリフォルニアワインファンにお薦めの内容です。

後半は主にワインの紹介。当然ながらIPOBのワイナリが多数紹介されています。実は『無敵のカリフォルニアワイン講座《ソノマ編》』にも、これを見て追加したワイナリがいくつかあります。後半は普通のカリフォルニアワインファンにも読みやすい内容です。

実は、IPOBには既存のワイン評論家、例えばロバート・パーカーやWine Spectator誌のジェームズ・ローブはやや否定的な見解を示しています。

実際、これがカリフォルニアワインのマジョリティになるかどうかというと難しいところはあるでしょう。それでも、これまでよりもカリフォルニアワインの世界が広がるのではないかと、個人的には期待しています。

本書を読むには、書いてあることをすべて真に受けるのではなく、いろいろな視点の1つとして読むリテラシーも必要なように思いました。

なお、本書を単行本で日本で買うと3500円以上しますが(米国でも35ドル)、電子書籍版だと1000円台。Kindleだけでなく、Kobo版もあります。僕はKoboで3割引クーポン使って買いました。かなりお得です。

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