トアー・ケンワード(Tor Kenward、トワー・ケンワードと書いてあるときもあります)はナパのセント・ヘレナにあるワイナリー。2001年にトアー・ケンワード氏が妻のスーザンと設立しました。単一畑のカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネを中心とし、Wine Advocate誌の評価ではこれまで最高98-100点を得ています。2008年にはSFクロニクルの選ぶ次世代カルトに選ばれるなど、2000年代に作られたワイナリーの中ではトップクラスの1つと目されています。

そのトアー・ケンワード氏がこのたび初来日。そのセミナーに参加してきました。
Tor Kenward
トアー・ケンワード氏は1970年代前半にはサンタ・バーバラでジャズ・クラブを経営。また、料理本の著作もあったそうです。スーザンさんも何冊か料理の本を書いています。

1975年にナパを訪れ、当時のまだ牧歌的だったナパに惹かれて、ベリンジャー(Beringer)に職を得ました。以来27年間、広報担当として最後は副社長にまでなりました。

ベリンジャーでは、少量生産の特別なワインを作る経験や、欧州でのワイン作りの研修などの経験をし、UC Davisでワイン作りを学びました。また、ケイマスのチャック・ワグナー氏を始め、多くの人脈を築き上げました。

トアー・ケンワードでは、「北カリフォルニアで最高の畑」を選んで契約し、ワインを作っています。シャルドネでは唯一ソノマの畑としてキスラーやパッツ&ホールのワインで知られるデュレル(Durell)や、カーネロスのハイド(Hyde)、ハドソン(Hudson)といった超有名な畑、カベルネ・ソーヴィニヨンでは100点ワインを輩出しているベクストファー・トカロン(Beckstoffer To-Kalon)などの畑と契約しています。こういった畑との結びつきに役立ったのがベリンジャー時代の人脈。例えばベクストファーのオーナーであるアンディ(Andy Beckstoffer)とは、一緒にサンフランシスコ49ersの試合を見に行く仲だそうです。

また、畑はすべてエーカーあたりの契約。ブドウの重量ではないので、収量を極めて小さくして最高のブドウを作っています。ただ、収量は単純に減らせばいいというわけではなく、畑ごとに最高のバランスを得るための方法を経験から判断しているとのこと。畑によってはトアー氏自ら畑で働く人達に指示を出しているとのことです。契約している12の畑を回るのは、トアー氏にとっては「最高の遊び場」と、仕事を楽しんでいる様子が伺えました。

ワインメーカーはジェフ・エイムズ氏。ドイツ生まれでシュレーダーなどでトーマス・リヴァース・ブラウンに師事。2003年からトアーのワインメーカーを務めています。

試飲では、まだ米国でもリリース前で初お披露目だという2013年のシャルドネ2種(デュレルとハドソン)、2012年のナパ・ヴァレー・カベルネ・ソーヴィニヨン、それからワイナリーの蔵出しで2005年のベクストファー・トカロン・カベルネ・ソーヴィニヨンが供されました。
Tor Kenward

デュレルは花の香りや柑橘系の香り、ふくよかで華やかな印象を持つシャルドネ。一方、ハドソンはフレーバーもタンニンもしっかりとしてミネラルを感じるシャルドネ。今飲むならデュレル、熟成させるならハドソンに魅力を感じました。個人的にはデュレルのようなシャルドネ、大好きです。どちらも300ケースの生産量。

なお、シャルドネではウェンテ(Wente)クローンをどちらの畑でも使っているとのこと。人気があるディジョン(Dijon)クローンよりもブドウの房が小さく、フレーバーが凝縮するのだそうです。

ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンは非常に滑らかでバランスの良さを感じるワイン。カシスやブルーベリーなど青系の果実にブラックペッパーなどスパイスを感じました。とても飲みやすく、料理にも合わせやすいカベルネ・ソーヴィニヨンです。スーザンさんはカベルネ・ソーヴィニヨンをラム肉に合わせるのが好きだと言っていました。

最後の2005年のベクストファー・トカロンは圧巻。グラスに鼻を近づける前から香りが漂ってきます。熟成によって醤油のような旨味も出てきています。とてもしっかりした印象のワインであるのと同時に、ビロードのようなテクスチャの滑らかさに驚きました。トアー氏は、「アカデミー賞のレッドカーペットのよう」とそのテクスチャを表現していましたが、それが誇張でないくらい素晴らしく、また余韻も長いワインでした。なお、ベクストファー・トカロンの場合、ブドウの木の枝(シュート)1本につき、わずか1房しか実を付けさせないようにしているとのこと。

トアー氏の飾らない人柄も魅力的で、非常にいいセミナーでした。これまでトアー・ケンワードのことはあまりよく知りませんでしたが、想像以上にワインも美味しく、スピットするつもりが、大分飲んでしまいました(汗)。

今回のセミナーについては船橋の山城屋さんのサイトでも紹介されています。