チャッド・メルヴィル
昨年(「メルヴィル/サムサラのチャド・メルヴィルがピノを語る」)に続いて今年も、メルヴィル/サムサラのチャド(チャッド)・メルヴィルによるセミナーが開かれました。

試飲したワイン(左3本はバレル・サンプル)
試飲したワインはこの6種。左の3本はバレル・サンプルで、いずれも2016年に醸造したもの。1週前に樽から抜き取ってこのセミナーのために日本に送ったのだそうです。

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簡単にメルヴィルのあるサンタ・リタ・ヒルズの基礎をおさらいしておきましょう。サンタ・バーバラのあたりはアメリカの西海岸の中でも太平洋側に突き出た形をしています。そのため、海岸線が南北だけでなく東西になるところもあり、海岸線と平行に走る山脈も東西になります。寒流の流れる太平洋からの冷たい風が、山脈に邪魔されずに内陸に入るため、気温は海からの距離に大きく左右されます。だいたい、3km内陸に入ると摂氏1度くらい気温が上がります。

また、このあたりの土地の多くはかつて海底だったところで珪藻土が表面を覆っています。細かく白っぽく軽い土で、指に着くと指が白くなります。とても痩せていて、水はけのよい土壌であり、冬には豆類をカバークロップとして植えることで、栄養を補っています。

まずはこのバレル・サンプルを元に、クローンの違いなどをテースティングしていきます。

最初のサンプルはイノックスの畑から。ここは2エーカーもない小さな畑で、クローン76だけが植わっています。鮮烈な酸味があり、その下から白い花の香りや青リンゴ、オレンジといったややふくよかな味わいも出て来ます。発酵、熟成とも、ステンレススチールのタンクで、マロラクティック発酵はありません。かつてのダイアトムのワインのように鮮烈で力強くデリケートなワイン。日本人が好きそうな味わい。

次はメルヴィルクローンと呼んでいる出所を明かさないクローンのもの。使い古しの樽を使っています。最初のサンプルより糖度が高く、ワインのボリュームも感じます。色がややピンクになっているのは「少し酸化してしまった可能性が高い。SO2が少なすぎたのかも」とのことでした。最初のサンプルほどの鮮烈さはないけど、ボディに弛んだところはなく、美味しいです。

バレルサンプルの最後はハンゼルのクローン。カリフォルニアで一番古いシャルドネとも言われているハンゼルから直接もらい、接木して増やしたものだそうです。これはミネラルというか、サンタ・リタ・ヒルズの特徴と言われている「ソルティ(塩っぽさ)」を感じました。
後半のワイン

後半は市販のワインから。

エステート シャルドネ2013はメルヴィルで育てている7つのクローンが全て入っています。10~20年の木の大樽で発酵、熟成しています。マロラクティック発酵はしていません。

メルヴィルの畑は全部で120エーカーほどですが、シャルドネはうち14エーカーとかなり少ないです。

これも「ソルティ」を感じました。柑橘系はオレンジ的なややまろやかな感じで、これまでのバレル・サンプルのような強烈な酸味ではありません。

次はエステート ピノ・ノワール2013。6000ケースとメルヴィルのワインの中では最大の生産量のワインです、メルヴィルでは178個の発酵槽を使ってピノ・ノワールを作っており、そこから単一畑や単一ブロックのワインを除いたものが、このエステートに使われています。品質に問題があるものがあれば取り除きますが、これまではそういう問題が出たことはないそうです。なお新樽は使っていません。

40%除梗なしというのはレギュラークラスのピノ・ノワールではかなり珍しいのではないかと思います。チャド・メルヴィルは「ステムを使うのはワインを育てることの一部」だと、こだわりを見せます。収穫は全部で8週間くらいかかるそうですが、最初のうちはステムの熟成度が低いためほとんど使わず、収穫が進むにつれて、茎を使う比率を増やしているそうです。

いちごやラズベリーなど赤系の果実味が中心。かなりエレガントです。昔のメルヴィルのピノ・ノワールはもっとアメリカン・チェリー的なダークな果実味があったような気がするのですが、ちょっと印象が変わりました。

エレガントなだけでなく、タンニンもあり、旨味もかなり感じます。「甲殻類のグリルなどに合う」というのはインポーターさんのコメント。

最後はブロックMのピノ・ノワール。これは2015年のものです。ここは特別にいいブドウができるブロックで、丘の頂上になっています。粘土質の土壌があるとのこと。5エーカーでクローン114と115がうわっています、

酸やタンニンがしっかりして骨格がかっちりした印象。鉱物的なニュアンスもあります。赤系のフルーツの風味はありますが、それほど果実味中心の味わいではありません。エレガントとパワーの中間的ピノ・ノワール。美味しいです。

メルヴィルのワインは自社畑ですべてをコントロールできるため、コストパパフォーマンスも高いです。その印象は以前と同じですが、ワインの味わいはかなりエレガントで近年の嗜好の傾向に合わせて来ているのかなあと感じました。